再生建築の全てを解説するブログ

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再生建築のメリット(6)新築では作れない形態にできる


今回は再生建築でしか作れないかたちについてお話します。


前提:遵法性(検査済証)と耐震性(耐震補強)を確保する
詳しくはまた書こうと思いますが、僕が働いている事務所では基本的に確認申請を行い検査済証を取得します。それからコチラで書いたように、旧い建物は耐震化させて安全にします。これは新築同等の安心(遵法性)と安全(耐震性)を確保するためです。


法的に新築ではつくれない高さ・面積を維持できる
テナントビルはお客さんに貸し出して賃料を得ることを目的をしています。そのため貸し出すことのできる面積が大きいほど有利な建物であることになります。再生建築では法的には新築することのできない高さ・面積を維持することが可能な場合があります。主なものは以下です。



1)容積関係
建築基準法は定期的に改正が繰り返されています。ある地域では昔に比べて容積率の規定が厳しくなっていたりします。また、ある年代以前では容積率の指定そのものがなかったりします。そのため、現行の規定にあわせて建て替えると既存の建物よりも小さなものしか建てられなくなり、賃料収益がガクッと減ってしまいます。

2)高さ関係
建物が新築された以降に絶対高さの制限、高度地区などの規定が定められた場合、建て替えると既存の建物よりも小さなものしか建てられなくなります。

3)広さ関係
地区によっては前面道路からセットバックしなければならない場所があります。建て替えると既存の建物よりも小さなものしか建てられなくなります。




経済的に新築では効率の悪いかたちを実現できる
これは建物の用途を変更する時に可能な場合があります。というのも、建物の最適な形式は用途によっていつくかパターン化されているからです。ある用途Aのためにつくられた建物を別の用途Bに変更するときを考えます。用途Aに適した形式で作られた建物を用途Bとして使うことになります。この時、普通に新築するのでは生まれない、用途と建物形式の組み合わせが生じます。


以下はその例です。
テート・モダン発電所→美術館)


これはもともと発電所だった建物を美術館に再生した事例です。こんなに大きな展示空間を作るにはものすごいコストがかかるため、新築ではまずやりません。しかしこの建物はもともと発電所として作られたため、このような展示空間が確保できているのです。



圧倒的なスケールの展示室。これはかつて発電機があったタービンホールを展示空間として読み替えることで、新築では絶対に作らない(なぜならコストがものすごくかかるから)空間ができています。




戸畑 図書館(区役所→図書館)


もうひとつ、僕が働いている事務所の事例を(笑)この建物は今から80年ほど昔、昭和8年に戸畑市役所として建てられました。1963年の5市合併により北九州市が誕生してからは初代本庁舎として9年間利用されました。その後は戸畑市役所として長く市民に愛されてきましたが、2007年の新庁舎完成以後は空き家となっていました。


再生するにあたり、途中で増築された箇所を解体して新築時のオリジナルな形状を取り戻しています。また、旧耐震建築物であるため耐震補強が必要でしたが、旧庁舎のシンボルである塔屋やスクラッチタイルによる外観を残したいという思いもありました。そのために建物内部で耐震補強を行っています。動線の妨げにならないよう、アーチ型の補強を考案しました。この補強は鉄で出来ており、旧八幡製鉄所企業城下町であった地域性も反映しています。


まとめ


・前提として、遵法性(検査済証)と耐震性(耐震補強)の確保は必要


・賃貸に有利な点として、法的に新築ではつくれない高さ・面積を維持できる


・用途を変更する際には、新築では生まれ得ない用途と建築形式の組み合わせが生じる。その結果、見たこともないような建物ができる。