こんにちは。再生建築の渡邉です。
今回は建物の耐震化について、
具体的にどんな耐震化の方法があるのか、おトクな助成金の情報、耐震規定の概要から現行の耐震指定の考え方など、
建物の耐震化についてあらゆる角度から解説します。
これだけ読めば建物の耐震化についてかなり詳しくなれるでしょう。
目次
▼ちょっと長いのでブックマークした方がいいかも
*前置きは良いので具体的な耐震化の方法が知りたいという方は
まで飛んで下さいね。
1.耐震基準の概要
ここでは「そもそも耐震基準はどのような内容になっているのか」を解説します。
背景はいいから具体的な方法を知りたい、という方は読み飛ばしてください。
1ー1.耐震基準は2段階
国内の建築物は、全て「建築基準法」という法律に基づいて設計・施工がなされます。*1
耐震基準も建築基準法の中で具体的な規定が定められており、建築の構造設計はこの規定に基づいて行われます。
現在の耐震規定は壊れるか壊れないかの2択ではない事が最初のポイントで、
具体的には2段階の地震力に対して耐震設計を行うという考え方がなされていて、
それぞれ1次設計、2次設計と呼びます。
もう少し詳しく解説すると、それぞれ以下のような方針で耐震設計が行われます。
- 1次設計・・・「稀な地震」あるいは「建物存在中に数回受けるであろう地震」に対しての設計で、建物の損傷を防ぐことを目的とする。
- 2次設計・・・「極めて稀な地震」あるいは「数百年に 一回程度発生する可能性のある地震」に対しての設計で、建物の被害は許容するが倒壊を防ぎ人命を守ることを目的とする。
もっと分かりやすく言い替えると、
と表現することもできます。
このような方法で耐震設計がなされた建物は、
阪神大震災や東日本大震災でも概ね倒壊を免れていることが確認されています。
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★ポイント
- 大地震は建物の倒壊はないけどひび割れは起こる
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1ー2.耐震性は2種類ある
建物が地震の揺れに耐える方法は、
ざっくり言うと
- 強度型・・・地面が揺れても石のように微動だにしない建物
- 靭性型・・・地面の揺れにあわせて竹のようにしなる建物
の2つに大別されます。
1つめの「強度型」というのは、
言葉のとおり地震の力に対して建物の強度で対抗する(変形しない)
というタイプの耐震性です。
地震に遭っても建物が変形することが無いように設計されていますが、
許容できる以上の地震力が建物に加わった場合は一気に建物が崩れるような壊れ方をします。
もう1つの「靭性型」というのは、
粘り強さで地震に対抗するタイプの耐震性です。
ある規模以上の地震に遭うと(人が避難できる程度に)建物が変形し、
建物が変形することによって地震のエネルギーを吸収する
という考え方です。
これら2つを比べると建物が変形する「靭性型」は「強度型」よりも危ないような気がするかも知れません。
が、
建物が変形するというのは危険が迫っていることを建物が知らせてくれるということでもあります。
ギリギリまで粘っていきなり建物がペシャンコになる方がよっぽど危ない、
という考え方もあるのですね。
このように、これら2つは地震に遭った時の建物の揺れ方がまるで違います。
また、
一般的に低層の建物より高層の建物のほうが揺れやすく、
鉄筋コンクリートで作られた建物よりは鉄骨で作られた建物のほうが揺れを感じやすい
傾向にあります。
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★ポイント
- 強度型は壁がたくさん必要になる
- 靭性型は揺れることで地震のエネルギーを吸収する
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*いやそんなことより具体的な耐震化の方法が知りたいよ、という方は
まで飛んで下さいね。
1ー3.地震の危険度=震度とは限らない
震度というのは人が感じる揺れの大きさです。震度2だと普通にしていらるけれど震度7だとほとんどの人は立っていられないように、震度が大きくなればなるほど「地震の揺れが人に与える影響」は大きくなります。
が、
建物の場合は少し違い、震度が大きければ大きいほど建物が壊れやすいとは限らないのです。
というのも、
地震時の建物の揺れ方は人と違って、地震の揺れる速度・方向、地盤の固さや水分量、建物の性質など様々な要因に左右されます。
そのため、人にとっては小さな揺れでも様々な要因が重なった結果、とても建物は大きく揺れる事態がたびたび発生します。
実際に、
たとえば東北地方太平洋沖地震では、
震度7を記録した栗原市では倒壊した建物はほとんど無い上に損傷などの被害も少なかったのに、
という現象が起こっています。
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★ポイント
- 「震度●●でも壊れない」という考え方は意味がない
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1ー4.耐震基準は最低基準
建築基準法は「これを守れば完璧な建物ができる」という主旨の法律
ではなく、「建物として満たすべき最低基準を集めたルール」です。
耐震基準もこの原則に則っているため、
とは限らないのです。
また、一般的にはあまり知られていないと思いますが、
実は
「あまり地震が来ないエリアは耐震基準が緩くなっている」
という事実は知っておいた方が良いでしょう。
具体的に
たとえば沖縄県は日本国内では比較的地震が少ないとされており、
沖縄県内に建てる建物の耐震性は、一般的なエリアの7割でOKという規定になっています。*2
また、
熊本県は一般的なエリアに比べて8割〜9割でOKとされているエリアです。
熊本県内ではほとんどの建物がこの基準をもとに耐震設計をしていたと思われ、一般的なエリアに比べて緩和された基準で耐震設計がなされた建物が多く存在していたと考えられます。
2016年に起こった熊本地震では
8,273棟が全壊
31,052棟が半壊
141,162棟が一部損傷
という被害を受けていますが、このことも決して無関係ではないでしょう。*3
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★ポイント
- 耐震基準は最低基準
- エリアによっては最低基準がさらに引き下げられている
- 最低基準の耐震性で良いかはよく考えよう
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1ー5.耐震等級とは
戸建て住宅を買ったり建てたりしたことがある方はご存知かも知れませんが、
建物の耐震力を表す指標には「耐震等級」というものもあります。
これは建築基準法とは別の法律である
「住宅品確法*4」の中で定められている
「住宅性能表示」という制度による基準です。
耐震等級と建築基準法上の耐震力の関係は
- 等級1・・・建築基準法と同じ耐震力
- 等級2・・・等級1の1.25倍の耐震力
- 等級3・・・等級1の1.5倍の耐震力
というようになっています。
何だかんだ建築基準法が考えの根本にあるのですね。
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★ポイント
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*前置きがもうちょっと続きます。
「早く具体的な耐震化の方法が知りたいよ」という方は
まで飛んで下さいね。
2.耐震性が足りていないのは「旧耐震」のマンション
現行の耐震基準を満たしていない建物は「旧耐震」と呼ばれ、一方で現行の耐震基準で建てられた建物は「新耐震」と呼ばれます。
ここでは「新耐震」と「旧耐震」の違いや、どのような背景で基準が改正されたのかを解説します。
2ー1.「新耐震」と「旧耐震」
上記で解説した「2段階で耐震設計を行う」という方法論は、1981年に行われた建築基準法の大改正で導入されました。
つまり
- 新耐震とは、1981年(昭和56年)以降の建物で、2段階で耐震設計がなされている。つまり、中小規模な地震では建物の損傷の防止を、大地震では建物の被害はやむを得ないが倒壊を防ぎ、人命を守るというコンセプトで耐震設計がなされている。
- 旧耐震とは、1981年(昭和56年)以前の建物で、旧式の耐震基準にもとづいて耐震設計がなされている。*5
ということになります。旧式の耐震基準で設計・施工されているから旧耐震なのですね。
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★ポイント
- 新耐震と旧耐震では耐震設計の思想が根本的に全く違う
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2ー2.耐震基準の変遷
以下は日本の耐震基準の変遷を示したものです。
上段では発生した地震を、下段では耐震基準の改正に関する法改正を、それぞれ時系列に沿って並べています。
これから明らかなように、日本の耐震基準は震災による大きな被害が生じた後に改正されています。
当然ですが最初から完璧な耐震基準を考えることなんて絶対に不可能なわけで、ぼくたちの先輩は100年弱をかけて
というループを繰り返しながら、耐震基準と耐震技術を向上させてきました。
いくら机上で計算しようと大掛かりな設備でシミュレーションしようと、本当に耐震基準が安全なものなのかどうかは実際に地震が来ないと分からないという側面があったのです。そもそも近代的な耐震基準が最初に設けられたのは1923年。何とまだ100年も経っていないのです。
ちなみに、1995年に起こった兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、旧耐震の建物と新耐震の建物で被害に大きな違いが認識されています。
新耐震基準の建物はその後の震災でも比較的被害が少なかったため、建物本体の耐震基準は完成されたと考えられるのでしょう。*6
この震災で「ほぼほぼ躯体(建物の骨組み)の耐震基準は整った」というのが大方の見方みたいで、現在では躯体以外の天井やエレベーター・エスカレーターなどの耐震基準が制定されはじめています。
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★ポイント
- 耐震基準は昭和56年(1981年)に出来たもの
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2ー3.耐震性は数値で評価できる
建物の耐震性は数値で表現できる仕組みになっており、特に耐震補強をした建物の耐震性はIs値というもので表現されます。
Is値とは新耐震(現行の耐震基準)と比較してどの程度の耐力を保有しているかを示す値です。
Is値が大きければ大きいほど耐震性に優れることを意味し、Is値=0.6以上あれば新耐震と同等とされています。逆に言うとIs値=0.3の建物は必要な耐力の半分しかないということです。
つまり現行の耐震基準と同じレベルの耐力とするには耐力を2倍にしないといけないということです。*7
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★ポイント
- Is値を計算するには2〜3ヶ月ほどかかる
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3.マンションを耐震化する時の流れ
ここからはマンションを耐震化するにはどんな作業が必要なのか、具体的に追って解説します。
3ー1.躯体調査
既存建物の躯体(柱や梁など)の状況を調べます。
例えば鉄筋コンクリート造の建物の場合、
などを調査します。
調査は躯体を直接削ったりするので、入居者の方からクレームが来ないように事前の入念な調整が必要だったりします。
とはいえ「この建物は旧耐震なので調査しますね」なんてぶっきらぼうに言っちゃうと入居者さん達は「え?!この建物って地震が来たら壊れちゃうの?!」と不安に思ってしまったりするので、その辺りの調整は経験ある会社に頼みましょう。
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★ポイント
- 必要な調査の内容は設計者や既存建物の状況で異なる
- 逆に旧耐震を公言することで入居者の退去を促すという考え方もある
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3−2.耐震診断
耐震診断とはIs値を計算する作業です。
躯体調査のデータや依頼主からお借りした図面をもとに計算します。Is値は建物全体の数値はもちろん、縦方向、横方向それぞれの値が、各階で計算します。
つまり、耐震診断では
- 建物全体の耐震性がそれくらい不足しているか
- 構造上の弱点(最も耐震性が低い部分)はどこか
- なぜ耐震性が低いのか
などを分析することができます。
ちなみに耐震診断にもいろいろな精度のものがあり千差万別ですが、超重要なのが耐震改修促進法にもとづく耐震診断であることです。
よく自治体が無料で行っている簡易診断がありますが、これらは超ざっくりとした診断なので、それだけでIs値を出してもあまり意味がありません。*10
自治体が無償で提供している簡易診断は完全な耐震診断というよりも、耐震改修促進法にもとづく精密な耐震診断を行う必要性がありそうかどうかをチェックする、くらいのつもりで受けてみるものだと考えましょう。
ちなみに耐震改修促進法にもとづく耐震診断にも精度が段階的に分かれており、1次診断〜3次診断という3種類の診断方法があります。
- 1次診断・・・柱の壁の断面積とコンクリート強度をもとに診断する方法
- 2次診断・・・1次診断に加えて靭性(粘り強さ)も考慮して診断する方法
- 3次診断・・・2次診断に加えて梁も考慮して診断する方法
それぞれ
1次診断は柱と壁がたくさんあればOK、
2次診断は柱と壁の粘り強さがあればOK(各部材の粘り強さをひとつづつ計算するのでちょっと面倒)、
3次診断はさらに梁まで考慮するから計算も調査も大変
という感じでイメージすると分かりやすいです。
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★ポイント
- 耐震改修促進法にもとづく耐震診断以外は基本的に意味がない
- 診断の次元が上がるほど診断費用は高額になるが、補強量=工事費は少なくなる
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3−3.補強設計
ここまで進んでやっとこさどんな耐震補強が有効かを検討することができます。
ただ単に耐震ブレースを付けさえすれば耐力が向上するというものではないのですね。
この段階で重要なのは
複数案を提示してもらいながら徐々に設計を進めること
です。戸建て住宅やマンションリノベの設計みたいなイメージです。
というのも、
耐震補強は1つしか方法がない訳ではけっしてなく、様々な補強方法があり得るからです。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるので、それらを比較しつつ、
自分がどんな建物にしたいのかを建築家と一緒に考えましょう。
ということは、
この段階になると耐震性だけを考慮していてもプロジェクトは進みません。耐震性以外にも
- 耐震補強によって使い勝手は著しく低下しないか
- 予算はどれくらい?
- 必要な耐震性をギリギリ確保できればOKなのか、少し余裕を持たせたいのか
- この耐震補強をキッカケに建物の魅力をアップさせられないか?!
などなど建物トータルの方向性を考えておきましょう。
というか、こういった検討が必要な時点でやっぱり建物全体を考えられる建築家に依頼するのがベストなんです。
▼興味のある方は弊社ウェブサイトよりご相談ください^^
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★ポイント
- 耐震補強以外の設計も同時に進められるように準備しておこう
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3−4.補強工事
工事は設計者と別の会社に依頼するのが良いでしょう。
大きな会社は設計施工をワンストップで行えるメリットがありますが、設計図書のとおりに工事を進めてくれているかをチェックする意味で、設計者と施工者は別の会社にする方がベターです。
設計前の相談時から工事の見積書まで提出してくる会社もありますが、そんな見積書なんて1秒も見る意味はないです。
なぜなら耐震補強の工事費は、調査→診断補強設計→見積という手順で進めないと、見積もれないからです。どんな補強がどれくらい必要かも分からないうちから作成した見積書を持ってこられたらその時点でその業者は疑った方がいい。
▼ちなみに設計事務所は図面を描いて終わりではなく現場に通ってチェックします。
夏のころ行ってた現場で。#工事監理 #現場 #大崎 #耐震工事
懐かしい写真だ。。
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★ポイント
- 過去に耐震補強を行った実績がある業者にしよう
- 工事費が安すぎる業者には注意しよう
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3−5.助成金申請
自治体によっては建物の耐震化に対して助成金が貰えちゃうことがあります。
阪神淡路大震災では多数の死傷者・行方不明者が出てしまいましたが、被害の原因は多数の人が倒壊した建物の下敷きになっただけではなく、
倒壊した建物により道路が塞がれてしまった事が原因で、救援部隊が被災地に向かうまでものすごく時間がかかった事にあります。
そういった反省を踏まえると、経済的に助成してでも耐震化を進めた方が万が一被災した時の救援・復興がスムーズに進むだろうという判断はとても合理的ですね。
▼参考までに東京都で申請できる耐震化の助成制度を貼っておきますね。
けっこう充実してますね〜。
注意点として、
助成金は耐震化にとりかかる前に申請しないといけないです。
耐震化が終わって役所に行っても相手にしてもらえないので気をつけて。
また、助成金申請の手続きも耐震診断、補強設計、補強工事のそれぞれでやらないといけないことがほとんどです。
診断、設計、工事のそれぞれに対して予算を割り当ててもらう感じですね。
それから、耐震診断などの内容も第三者委員会によるシビアなチェックを受けなきゃ行けないという自治体もあり*11、ちょちょっと補強材をつけて自治体から補助ももらえちゃう!みたいなオイシイ話ではないです。
書類の審査も時間がかかるので早め早めの準備をしましょう。
*あくまで一般論で、実際のところは助成金を交付する自治体によって様々です。
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★ポイント
- 助成制度は年度の頭に公開されることが多い
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4.耐震補強の方法
4−1.補強部材の新設
ブレースや耐力壁などの補強部材を新しく取り付ける方法です。
- 耐震壁の増し打ち・・・効きの悪い耐力壁を分厚くする方法
- 耐震壁の新設・・・柱と柱の間に耐力壁を新設する
- そで壁補強・・・柱に幅90センチ〜の壁を新設する
- 耐震スリットの新設・・・柱と壁の間に隙間をあける
- 柱補強・・・柱に鉄板や炭素繊維を巻き付ける
- ブレース新設・・・よく見るやつですね
- 外付けブレースの新設・・・建物の外側に設置するので屋内への影響が少ない
- バットレス補強・・・こちらも屋内への影響が少ない
屋外に補強材を付ける方法は、屋内の工事が(ほとんど)ないというとても魅力的なメリットがあるのですが、
補強効率が悪いので部材がたくさん必要になり割高であるなどのデメリットがあり
それぞれ一長一短です。
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★ポイント
- 補強部材は柱・梁のフレーム内に設ける必要がある
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4−2.荷重の削減
意外かも知れませんが建物は軽い方が耐震的には有利とされています。
つまり耐震的に不要な要素はなるべくなくしてしまった方が安定するということです。
人間の身体が贅肉を落とすとケガをしにくくなるのと同じですね。
この方法は上の階であればあるほど有効に働きます。
上部が重くて下部が弱いものはなんとなく不安定なイメージですよね。
逆に下半身がどっしりして頭に重りが少ない方が安定するイメージです。
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★ポイント
- コンクリートの外壁をガラス張りにするだけで大幅な軽量化が可能
- 用途によって荷重が異なるので、重くなる用途変更には注意しよう
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5.こんな耐震には気をつけろ
5−1.マンションの耐震性をアップしない製品
「これを設置するだけで建物を地震から守ります!」といった文言でアピールしている耐震部材の商品をときどき見かけるのですが、
何かしらの部材を取り付けるだけで建物の耐震性が向上することはありません。
建物の耐震性を向上させるには、
- 構造体の部材(コンクリートなど)が健全であるかを調べ、
- 耐震診断により既存の構造体のどこが、どれくらい弱いのかを数値で評価し、
- 専門家による計算を伴った補強設計を行い、
- しかるべき業者に施工してもらう
という手順が必要だと解説しました。
これらの手順をすっとばして「それっぽい部材」を取り付けるだけでは何の意味もありません。
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★ポイント
- 調査→診断→設計→見積→工事の順番を徹底しよう
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5−2.行政から派遣される無料診断
この制度自体は良いものなのですが、注意したいのは
「簡易診断だけでは正確な耐震性は分からない」という点。
これはあくまで「精密診断を行う必要があるものかどうかを把握する」という位置づけの制度です。
簡易診断の結果によっては精密診断を行いましょう。
また、優秀な構造設計者の方は正直言って行政から小銭を貰って本気で耐震補強を検討しているかも分からない人を相手に仕事してられない大変忙しいので、無料診断で優秀な構造設計者が派遣されることはほぼ確実にあり得ません。
無料診断で派遣される建築士の方は・・・・という場合がほとんどでしょう。
*もちろん独断と偏見で言ってます。
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★ポイント
- 無料診断をしても結局は精密診断をすることになるよ
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5−3.補強位置が悪すぎる設計者
他者さんから耐震診断と補強提案を受けたという方から相談を受けることがあるのですが、皆さん共通しているのが「補強すると全く使い物にならない間取りになるから工事を諦めた」ということ。
その方達から見せて頂く資料では、どれも建物の真ん中に補強がどどーんと描かれていたりしています。こんな建物どうやって使うの?という感じなのですが、ビルオーナーさんはそれしか補強の方法がないと思い込んでいました。
このパターンに多いのが
「設計事務所ではなく構造設計事務所に耐震診断を依頼していること」
です。
建物の構造に関わることなのだから構造設計が専門の事務所に相談する、という選択肢は一見すると正しいように思えます。
でも、
彼らはほとんどの業務を(いわゆる建築家が主宰する)設計事務所から受けています。
つまり、
- 専門家でない一般の人を相手に、
- そういった人たちが自覚していないニーズを、自分から汲み取り、
- プランに落とし込む
という
建築設計の提案において非常に大切な能力のトレーニングを受けていないのです。*12
なので、彼らの多くは「こんなところに補強があったらまるで使えないじゃん!」とクライアントから言われるなんて想像もつかないのです。頭の中は「より少ない部材で耐震性を引き上げること」でいっぱいなのですね....。
悪質な業者の中には、
あえて使い物にならない位置に補強を提案して、耐震診断の報酬だけもらう(=そこでプロジェクトをストップさせる)という業者もいたりします。。
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★ポイント
- 構造以外も含めて建物トータルを考えてくれる建築家に相談しよう
- 優秀な建築家は優秀な構造設計者と繋がっている
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5−4.設計施工の業者
大きな会社だと自社の中に設計部隊と施工部隊を抱えていて、
設計から施工までをワンストップで請け負ったりします。(というか、それが当たり前だと思い込まされているビルオーナーさんはけっこう損している....。)
このタイプの業者に依頼することの最大のリスクは
「工事費の相見積ができないこと」
です。
新築工事であればまだ「プランと見積を数社に提示してもらい、工事費や契約条件を比較する」という検討が可能なのですが、
耐震補強では
- 調査と診断を終わらせないと設計ができず、
- 設計を終わらせないと工事費の見積ができない
という特長があります。
そのため、相談を受けてすぐに無料で工事費の見積を提示するなんてことは絶対に不可能なのです。
だとすれば、設計と施工を同じ会社に依頼することはほとんどメリットがないどころか、後戻りできないタイミングになって業者の言い値で工事を発注しないといけなくなるというリスキーな選択肢でもあるのです。
5−5.無級建築士の事務所
設計事務所でのたまにあるあるなのですが、
事務所を開設している建築家の中には建築士資格を持っていなかったり、
持っていても2級建築士だったりすることがあります。
色々な賞を取っていたり、
有名大学で設計を教えていたり、
建築雑誌の誌面を飾っていたり、
一見華々しい経歴の方も無資格だったりするのでご注意を。
念のため免許証をみせてもらうと良いかも知れませんね^^
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★ポイント
- 設計施工の業者を選ぶと工事費の比較検討ができないよ
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以上、ここまで建物の耐震化について色々と解説しました。
ここまでの内容をむりやりまとめると、
- 昭和56年(1981年)以前の建物は旧耐震であり、耐震化の検討が必要
- 耐震化は躯体調査→耐震診断→補強設計→補強工事の順に進める
- 耐震化だけでなく建物トータルを考えよう
- 設計までは建築家に、工事は相見積を取って施工会社に依頼しよう
という感じでしょうか。
▼建物の耐震化にご興味がある方はこちらからご相談くださいね^^
では、また!
はじめましての方へ
自己紹介です
ブログスタートのきっかけ
*2:本当は違うのですが、話を簡単にするために
*3:住家に限る。「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント(国交省住宅局)より
*4:正確には住宅の品質確保の促進等に関する法律」
*5:もちろん建築基準法は最低基準なので、現行の耐震基準に照らし合わせても十分な耐力を持つ建物もあります。
*6:勿論改善の余地はあり少しづつ改正が進められていますが。
*7:Is値が0.6以上を確保していれる建物は必ず地震の被害を免れるという意味ではありません。
*8:どれくらい深く埋まっているか
*9:屋上に思い設備があると耐震上かなり不利です
*10:中には精密な診断を無料でやってもらえる所もあるのかも知れません。
*11:耐震評定といいます。
*12:もちろんそういったことが出来る素晴らしい構造設計者さんもたくさんいます。