今回は
検査済証のない建物で
- 用途変更
- 増築
- 大規模の修繕/模様替え
の確認申請を出す方法を解説します。
過去に
- 中古物件をリノベーションしようとしたら用途変更の確認申請が必要だとがわかった。
- いろいろ調べると、検査済証がない建物では確認申請ができないと言われ、リノベーションを断念した。。
という経験をされた不動産オーナーの方、建築業界の方は必見の内容です。
▼ぜひブックマークして読み返してみてください。
目次
1.弊社の事例
という事で、まずは弊社で手がけた再生建築の実例からご紹介です。
築40年くらいの検査済証がなかった建物を用途変更しています。
もともとは事務所+店舗+共同住宅だったのですが、まわりの環境の変化などのせいで事務所としてのニーズが減っていたため、空室が増えてお困りの物件でした。
そこで弊社にて事務所部分を共同住宅に用途変更し、空室を改善したというプロジェクトです。
▼詳細と具体的な解説はコチラ
www.aki-watanabe.com
2.具体的なステップの前に
2−1.大前提を理解しよう 検査済証がないと何が問題なの?
まず最初に押さえるべきは、違反建築物は確認申請を受け付けてもらえないという点です。
と言うのも、
確認申請という手続きのそもそもが「工事しようとしている計画が現行の規定にあっているかを行政や国の認可を受けた業者がチェックする」という趣旨のものだからです。
違反建築物が確認申請を受け付けてもらえないのは当然ですね。
2−2.現行の規定にあっていない建物はどうすればいいの?
現行の規定に合っていない状態には違反と既存不適格の2つがあり、以下のようにそれぞれ法的な位置付けが全く異なります。
- 違反・・・・・・新築時から当時の規定に適合していなかった
- 既存不適格・・・新築時は当時の規定に適合していたが、その後に法改正があり、改正後の規定に適合しなくなった
確認申請時に求められる対応も、違反と既存不適格では天と地ほど違います。
- 違反・・・・・・法令に合わせて是正する
- 既存不適格・・・原則としてそのままで良い(既存建物の状態や工事の内容によっては現行規定に適合させる必要もあります)
新築時から違反してた建物は是正しなきゃいけないけれど、
新築後の法改正で法令に適合しなくなった建物はそのままで良いよ、
という事ですね。
※工事内容によりますが、既存不適格でも現行規定に適合が必要な項目は多いです。ここでは話をシンプルにするために上記のように解説しています。
▼違反と既存不適格の詳しい解説はコチラ
saiseikenchiku.hatenablog.com
3.具体的なステップを解説するよ
具体的なプロジェクトを進めるためのプロセスをざっくり並べると、
- 既存建物の違反/既存不適格を仕分けし、
- それぞれについてどのように対応するかを整理した上で、
- 具体的な全体像を構想し、
- 設計・工事をして完成!
という感じになります。
3−1.既存の土地と建物に関する資料を集めよう
全ては既存建物の違反/既存不適格を仕分けすることからプロジェクトは始まります。この時に最も有効なツールが新築時の資料です。具体的には以下があるとスムーズです。
- 確認申請書
- 建築図(意匠図・構造図・設備図・構造計算書)
- 確認済証
何が必要かよく分からない、という方はとりあえずあるもの全て専門家に見せればいいです。
また、資料が一切ないというご相談もいただくのですが、その時はゼロから資料を復元することになります。
▼詳細なリストと解説はコチラ
saiseikenchiku.hatenablog.com
3−2.簡易チェックをしてもらおう
大学院生の頃に再生建築を専門的に扱い始めてそろそろ10年が経つのですが、今では何かしら資料を見ればどんな違反・既存不適格があるかだいたい分かるようになりました。
あくまでざっくりとしたイメージなので不確定要素はありますが、最初期に全体像をつかんでおくことが大切です。
なぜなら、
次のステップからはどんなに安くても100万円〜の費用が発生するからです。
「多額の費用をかけて調査したら違反ばっかりで建て替えたほうがメリットあった」なんて結末を避けるために、まずは少額でリスクをヘッジしつつ全体の方針をつかむ事をオススメしています。
※リスクを承知でガンガン進めたいというお施主様もいらっしゃいます。もちろんその時はご意向にあわせて進める事が可能です。
3−3.詳細な調査をしてプロジェクトの方針を検討しよう
ここではあらゆる方面から調査・検討して完成までの道筋を立てます。
あくまで一例ですが、例えば
- 既存の違反/既存不適格を仕分けして、法的にどのような対応が必要かを整理する。
- 躯体の調査をして、構造的な補強が必要かどうかをチェックする。
- オーナー様のご意向をヒアリングして、プラン・外観を含めてどのような建物として再生するのがベストか構想する
- 完成までにどれくらいの予算と時間が必要かの見通しをつける
といった作業をします。
ここまでやれば法的な方針は目処がつき、ほぼ確実に確認申請を受け付けてもらえます。また、旧耐震の建物であれば耐震診断をした上で耐震補強のざっくりとしたイメージもまとまります。その他、ある程度の間取りや全体のプランもある程度まとまって全体像が見えてきます。
ここまでやってやっと具体的な設計・監理や確認申請を始められます。
3−4.具体的な設計・監理にとりかかろう
設計事務所とお仕事をされた方はイメージがつくかも知れませんが、
我々も一般的な設計事務所と同じように
- 基本設計・・・間取りや仕様を決める
- 実施設計・・・確認申請・その他の行政手続きや工事請負契約に必要な設計図書をつくる
- 確認申請・・・工事の許認可を受ける
- 工事監理・・・設計図書の通りに工事が進められているかをチェックする
の順にプロジェクトを進めます。
それぞれの段階で新築とは異なる再生建築特有のポイントがたくさんあるので、それはまたどこかで解説します。
小休止。
具体的なご相談は弊社ウェブサイトからご連絡くださいね。
www.aki-watanabe.com
4.検査済証について少し解説
4−1.検査済証ってなに!?
よく似た言葉で確認済証というものがあります。確認済証とは「建築確認を受けて審査に合格した事を証明する」書類です。新築時の法令に適合した設計図書である事を証明するもので、あくまで設計図書が法令に適合しているというのがポイントです。ちなみに建築確認の審査に使われた図書を確認図書と言います。
一方で検査済証は「確認済証が発行された確認図書の通りに工事が完了した事を証明する」書類です。確認済証を発行された工事が完了した時は、適切に検査を受けないといけないのですが、この検査に合格した時に発行されるのが検査済証です。この検査済証がある事で、適切に工事が終わった事を証明できるのです。
確認済証のみでは設計図書が適切であることしか証明できず、その設計図書どおりに工事がなされたのか=法的に適合して新築された建物なのかは分からない、ということになるのです。
4−2.検査済証がないとどんな問題が起こるの?
短期的に起こる弊害は
- 融資が降りにくい
- テナントに敬遠される
でしょう。
融資が降りない物件は購入できる層が非常に限られて来るため、必然的に市場での売値も下がってしまうでしょう。
また、特に外資系のテナントは入居するかどうかの判断において検査済証の有無を非常に重視する傾向にあり、検査済証がない物件は客付でも非常に苦労される方が多いかと思います。
長期的に起こる弊害としては
- 用途変更ができない(200㎡以下の規模や類似用途は除く)
- 旅館業・飲食業などの営業許可が取れない
- 増改築ができない(防火指定外の地域における10㎡未満の増築を除く)
- 大規模の修繕・模様替えができない(4号建築物を除く)
などが挙げられるかと思います。
大掛かりな工事や営業許可が必要なテナントを断念しないといけなくなりますね。
5.制度的な背景
5−1.現場の声
もはやスクラップ&ビルドばかりはできない社会になり、
検査済証なしの建物でも確認申請を出す方法をきちんと整備するべきだ!
という要望は多いはず。
大阪市内、築10年、3階建て。増築希望、図面、施工中写真あり、確認済み証、検査済証なし。増築の許認可はかなり難しい。住宅購入に対する知識は一般の方々にとってはまだまだ浸透していない。あたりまえか、、、
— まちなか建築家 まつばらこうじ (@matubara3) 2010, 11月 25
馬場正尊(OpenA 代表)さんはこんなアクションまでされているみたい。
馬場正尊さんの主張をざっくりこの記事からまとめると
- 今後の日本社会では、これまでと同じように新築を作り続けるというのは非現実的だ。
- これからの社会では、既存ストックの活用がより浸透するべきだ。
- 「検査済証」なしの建物は、再生しようにも確認申請が受理されない。そのことが建物の再生を阻害している。
- 「検査済証」なしの建物でも確認申請が受け付けられるように、法的なルートを整備すれば良いのではないか。
具体的な提案はこれ。
以下、上記の記事より引用です。
検査済証がない建物を用途変更する場合(確認申請をしたい場合)、確認申請の審査を行う民間審査機関が既存建物を検査し、当時の基準法に照らして適法かを現地審査。それを当時の適法状態にまで戻せば、検査済証に代わる証書を発行する、というルートだ。国はそれをオフィシャルなものとして承認する。
これがあれば、用途変更の確認申請を受け付けることが可能となる。
審査機関の新たな収益にもつながるし、行政の手続きや負荷もそれほど増えることはない。設計や投資をする企業にとっても手続きがシンプル。さらに建物の安全性も保たれ、不健全な状態にある建物を健全化する動機にもなる。この証書があればリノベーションもストックに対する不動産取引もやりやすくなり、活発化へと導くだろう。みんながちょっとずつハッピーなはずだ。
つまるところ、
”検査済証がないでも、遵法性の確認方法を決めたら、確認申請ができるようになるばい!”
ということですね。
ご自身の仕事が増えるだけでなく、審査機関、不動産業界、ビルオーナーなど
社会全体のパイが少しずつ増えるという視点も持ち合わせた、
すごくナイスなご提案だと思います。
5−2.検査済証なしの建物で遵法性をチェックして確認申請をするルートは既にある
そもそもこのことは国交省の方でも議論されていたようで、
実はこのようなものが整備されています。
「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関等を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」について(国土交通省HPより)
ちょっとこのガイドラインの冒頭を読んでみましょう。
以下、ガイドラインからの引用です。
わが国においては、年々、既存建築物の増改築や用途変更など既存建築ストックの活用に関するニーズが高まっている。
一方、建築基準法において、建築主は、工事完了後、建築主事又は指定確認検査機関による完了検査を受けて検査済証の交付を受けなければならないが、この検査済証 の交付を受けていない建築物が、平成11年以前では半数以上を占めていた。
こうした建築物では、増改築や用途変更に伴う確認申請に当たり、原則として既存建築物の部分が建築時点の建築基準法令に適合していることを確かめる必要があるが、 既存不適格建築物であるのか、違反建築物であるのかの判断が難しく、調査に多大な時間と費用を要する場合があることから、結果として増改築や用途変更を実現できないケースも見受けられる。
したがって、既存建築ストックを有効に活用する観点から、検査済証のない建築物の増改築や用途変更を円滑に進めることができるような方策を講じることが重要であることから、検査済証のない建築物について、その現況を調査し、法適合状況を調査するための方法を示したガイドラインを策定する。
いかがでしょうか?
つまるところ、国としては
”既存ストックの活用は必要やけど、昔の建物で検査済証あるのとか半分以下やし、検査済証がないでも建築主事が確認申請を受理できるようにせないけん。ちょっとその方法を考えてみたけん、良かったら今後はみんなこれでやってくれん?”という感じですね。
5−3.ガイドラインの効力は?
では、実際に確認申請を受け付ける立場にある人たち(=自治体や民間審査機関の建築主事)は
どのように受け取っているのでしょうか。
以下にいくつかの例をあげます。さくっと調べただけでもけっこう出てきます。
検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」の取扱いについて、静岡県からお知らせがございました。
詳細につきましては、下記のPDFをご確認ください。
ガイドラインを活用することにより、検査済証のない建築物の増築や用途変更の確認申請をスムーズに行って頂けるようになります。
(一般財団法人 静岡県建築住宅まちづくりセンターHPより引用)
国土交通省「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」に基づいた調査です。検査済証のない建物の増改築や用途変更の為の事前調査にご活用いただけます。
(日本ERI株式会社HPより引用)
検査済証のない建築物の建築基準法適合状況調査は、国土交通省が平成26年7月2日に公表した「検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン」に基づき、建築基準法の適合状況を調査するものです。
BCJは、指定確認検査機関として、当該適合状況調査業務を実施しております。
(一般財団法人 日本建築センターHPより引用)
ビューローベリタスは指定確認検査機関として、本ガイドラインに従い、検査済証の無い建築物の建築基準法適合状況調査を実施します。
(ビューロベリタスジャパン株式会社HPより引用)
基本的には”国交省の方針に従うばい!”ということなのだと思います。
(コチラに本ガイドラインにおける調査者として業務を実施する指定確認検査機関(H27.4.1時点)として届出をしている審査機関がリストアップされています)
ちなみに、このガイドラインの内容は各都道府県にも通知されています。
6.検査済証なしで確認済証を取得した事例ほかにも
6−2.博多駅前ホテル 違反建築の是正と用途変更
こちらは福岡県で共同住宅をホテルに用途変更したプロジェクトです。この建物は検査済証がないどころか違反建築だったのですが、必要な是正を施すことで無事に用途変更できています。
▼弊社ウェブサイトはこちら
www.aki-watanabe.com
以上、今回は
- 検査済証がない建物では、確認申請ができないとけっこう思われている。
- 実際は、検査済証なしでも確認申請を受理してもらう方法は、既にできている。
- 民間の審査機関も、このガイドラインに沿うところがいっぱいある。
というお話でした。
では、また!
※2015.9.28追記
このエントリをご覧になってご相談いただくケースが増えています。
具体的なご相談事項は
▼弊社HP問い合わせフォームからどうぞ!
www.aki-watanabe.com
こちらの記事をチェックしていただけるとより話がスムーズです。
saiseikenchiku.hatenablog.com