一般解による普遍的なスケルトンと特殊解による固有のインフィル[ 耐震][建築/Architecture]
以前お世話になった雨宮さんのオープンハウスに行ってきました。
(株)都市環境研究所の土橋さんという方と共同設計みたい。
築60年の住宅を増築することで検査済証を取得する、耐震補強を行うなど、個人的にもとても興味深く拝見。
雨宮さん(@biyaan_amemiya)のOHに。築60年の住宅を再生して検査済証を取得した住宅。既存を両側から挟み込むような増築とすることで、耐震補強をしつつ自由な間取りを獲得。外観の一新も。
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
新旧の混在
時間軸と部材を混在させることで分断されがちな過去と未来を接続させる。新旧の対比という安直なリノベ感に訴えるよりよっぽど「リニアな時間軸の延長にいる」という時間軸を獲得できるのでは?という試み。 pic.twitter.com/nZOaGSjFLK
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
リノベーションでよく使われる手法のひとつに「新旧の対比」がありますが、
この住宅ではそういった安直なリノベ感が避られています。
まず、こちらは分かりやすいリノベ感の例。
躯体に残る傷や既存のしつらいが漆喰の壁と対比されていい感じでした。
もちろんこれは素敵なんですけれど、
こういった手法はほぼ確実に「なんということでしょう!」と受け入れられる手法。
建築家としてはある意味キッチュな表現なんですね。
本当に面白いのは2階。
一見すると既存の木軸に抽象的なヴォリュームが挿入されたように見えるのですが、
既存の木軸と思っていたものが実は既存と増築だったり。
木軸は既存と新規が同じように仕上げられていて、どこまでが既存でどこからが新規なのか分からない。
新旧が混在した空間がつくられていて、こちらの方が圧倒的に豊かな空間だなぁとぼくは感じました。
モノの循環
で、時間的な新/旧を混在させているだけなのかというとそう単純には終わらず。
実は新規で作られたエレメントのいくつかは既存の建材が転用されています。
既存の建材が転用されることで、住宅がモノの循環を表現する装置になっているのです。
個人的にここはもうちょっとダイレクトな表現が見れるとよりおもしろくなるだろうな〜と思ったり。
1階と2階で真壁・大壁が反転したり、1階リビングでは既存の野地板が転用されていて、住宅内でモノが循環されている。 pic.twitter.com/Lxv2Ocp803
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
新築時・増築時・今回工事の補強梁。新設された柱。 pic.twitter.com/sHxvHUUEyd
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
「普遍的なスケルトン」と「固有のインフィル」
ここまで文章を書きながらいろいろ振り返りつつ、
この作品で1番のポイントというかテーマはやはり「スケルトンインフィル」。
一番の見所は、普遍的に共感され得る光や風などの「一般解」に基づくスケルトンと、現時点の施主要望から導かれる「特殊解」に添ったインフィル。 pic.twitter.com/dpAnEUaHe2
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
いろんなところから光が降り注ぐので、まだ照明が未設置なのに室内はとても明るいです。
もう晴れの日は照明いらないのでは、と思うくらい。
たぶんこの気持ちよさは老若男女古今東西を問わず共感できるものでしょう。
光や風といった誰にでも共感される条件(あとここでは耐震化という構造も)で骨格をつくり
その内部を現在の施主要望という固有の条件でつくる。
そうすることで、
長寿命かつ普遍的な価値を持つスケルトンと可変的かつ固有のスケルトンを獲得することができ、
普遍的な価値を持たせつつも施主の要望にも応え続けることができる。ストックの長寿命化にもつながる。
そーゆー方法でこの住宅はつくられています。
両側から挟み込む増築も、開口の位置や開け方も、白い内装も、新旧の対比も混在も、検査済証の取得も、
すべてはこうやって生きられた家をつくるためのように思えます。
SDレビューで入選したジャカルタプロジェクトでもまさに同様のことがテーマだったり、
過去のリノベプロジェクトでも光を追い求めたりしていて、
「一般解による普遍的なスケルトン」と「特殊解による固有のインフィル」というのは
この人が生涯をかけて追いかけようとしているテーマなのかな、と思ったり。
SIは以前SDレビューで拝見した作品でも共通したテーマで、「これを生涯かけて突き詰めるのだ」という雨宮さんの宣言のようにも感じられたプロジェクトだった。
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
そういえば、昔一緒に取り組んだコンペやあと一歩だった国際コンペでは空間の形式を「ネックレス」になぞらえて、
固有の条件で設計された必要諸室を風や光など普遍的な条件で設計されたループ状の空間が数珠状につないだりと、
この頃から一貫して同じテーマを扱っているようにも思えてくる。
あの時から既に「普遍的なスケルトン」と「固有のインフィル」は始まっていたのですね。
あの時はネックレスという形式にこだわっているのかなーと見ていたのですが、
十和田とか七ヶ浜とかにある作品とあの時のコンペ案が決定的にちがうのは、
各諸室がそれぞれの固有な条件で設計され、
それらをつなぐ回廊状の空間が光や風といった普遍的な条件で設計されている、
ということだったと、これを書きながら気がつきました。
まとめ
新/旧、一般解/特殊解、スケルトン/インフィル、いろいろなものが整理・反転・混在された住宅。
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
というわけで、既存不適格物件での増築による検査済証の再取得、旧耐震物件の耐震化、リノベーションからフラグメンテーションなど色んな文脈が随所に織り込まれていて素敵だなーと思いつつ、やっぱり雨宮さんカラーがにじみ出ているのは「一般解による普遍的なスケルトン」と「特殊解による固有のインフィル」と思ったオープンハウスでした。
まとめ:まだ新旧の対比とか言ってるの?w
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2016年3月31日
※追記
既存の木軸がきれいに現されていますが、それができているのは既存の検査済証があったから。
「検査済証なし」だと柱・梁の接合部などが既存不適格であることを照明できなかった場合、ゴテゴテと金物がくっついてきてしまいます。
こんな感じで↓
では、また!
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