「内と外の間」なんて何年も前からアイディアコンペのお題にされつづけててもう聞き飽きた、なんて感じるテーマだったりします。けれどこのお題が今回号・環境共生住宅を読む上で重要だったように思えるし、古くて新しいこのテーマはまだまだ建築を考えるうえで外せないのだな、と再認識しました。
#住宅特集 買ったので、読む#環境住宅 pic.twitter.com/Obw4blleNQ
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2018年3月24日
ということで、忘備録として考えたことをメモ。
淡路島の住宅
SUEPの十八番になっている感あるダブルスキン。透ける屋根に覆われたデッキスペースは直感的に気持ち良さそうに見える。これだけ開放的で気持ちの良い住宅でもZEHの認定も取得できるんだなと。
一方、外壁やサッシはしっかり高気密・高断熱の仕様なんだろうなと思いつつ、「高断熱・高気密外壁」+「透ける皮膜」のダブルスキンという結構立派な外皮をつくる必要があることも事実みたい。
魔法瓶化する住宅
CO2削減が必須な状況で国策としてZEB・ZEHが推奨されている現状で、_「魔法瓶のように外界をシャットアウトするだけの環境共生住宅が広まると住宅が数値を競い合うだけのスペック主義に陥ってしまうのではないか」という警告自体は、建築家にとっては何度も見聞きしたことのあるものだと思います。
が、エンドユーザーは必ずしもそうではないんですというのがぼくの実感。(少なくともぼくのまわりの)エンドユーザーは、ZEHという響きやランニングコストの安さを求めているだけのように思えて仕方ない。「とにかく樹脂サッシがいいの❤!」と意気込むクライアントに限って、通常のサッシがアルミで出来ていることすら知らなかったりします...。リテラシーを高める前に広告に踊らされてしまい、旦那に35年ローンを組ませて魔法瓶を買う奥様方の多いこと...。
温熱環境の向上自体は必要かもしれないけれど、日本のように温暖な気候で建物をつくるには、なるべく外界の環境を取り入れる方が、経済合理性を保ちながら快適性を向上できるもの。そもそも建物をつくりはじめた頃から何千年もずっとそのコンセプトでやってきてるわけで、急に魔法瓶つくりはじめても上手くはいかないんじゃないかなー。
開放系/閉鎖系
じゃぁ魔法瓶じゃない住宅って何なのよ!というのがぼくなりに今月号を読む視点です。まずは上記作品の解説テキストから「開放系/閉鎖系」という言葉を押さえたい。意味はざっくり以下のような感じ。
- 「閉鎖系」→魔法瓶みたいな住宅のことで、高断熱・高気密にして外界をシャットアウトした住宅のこと。
- 「開放系」→閉鎖系の反対、というわけではなく、外の環境を制御しながら取り入れる住宅。
開放系でも気密・断熱という性能は放棄されず、外界は制御しながら取り入れるというのが大事なところ。これらに比べて従来の住宅は、外の環境が制御されずに取り入れられてる、ということになります。*1
中間領域の創造
如何に開放系の空間をつくって魔法瓶化を回避しているか、という問いに対して、淡路島の住宅の作者である末光氏は中間領域という完全な屋外でも完全な屋内でもない、場所をつくることを提案しています。中間領域をつくることで、屋内に入れたくない環境要因(暑さ・寒さなど)はシャットアウトし、屋内に取り入れたい環境要因(そよ風、景色など)は取り入れる、ということが可能なんじゃないか、という提案です。やっと「内と外の間」に戻ってきたw
SUEPの作品では透ける屋根・外壁によるダブルスキンによって生まれるテラスが中間領域で、この中間領域によって例えば夏の日差しを遮り冬は日当りを確保するというようなことが試みられています。
で、意識的にしろ無意識的にしろ、他の作品も多くは同じように中間領域をつくっているように思われました。そこで、今回は
- 中間領域によって何を取り入れ、遮断するのか
- そのためにどんな中間領域をつくっているのか
- 中間領域によって魔法瓶とはどのように快適性が異なるのか
といった点を比べながらカテゴライズしました。以下、そのメモです。
________________________
ハイテク派
上記の淡路島の住宅が該当。巻頭の特別記事地球に暮らすリアリティでピックアップされた事例のように、コンピューターシミュレーションにより意外な形状の合理性を確認できるようになり、ハイテクを用いてエコを追求することで生まれる新しい形状には学生の頃から可能を感じる。
一方、作者自身も認めているように、これだけの条件を整理して検討するにはどうしても手間暇がかかるので、量産化という点ではなかなか苦戦するか。
ただ、そもそも
- 20年くらい年収は上がっていない
- 住宅に求められる性能や建設コストは上がり続けている
- 日本の住宅生産量は他の先進国に比べて圧倒的に大きい
という状況で、果たして住宅の量産化がどれだけ必要なのか?という疑問も。
ローテク派
ARIは小屋裏、竹林の住処は南西の竹林がそれぞれ中間領域としてデザインされている。これらに共通しているのはコンピューターを使った複雑な計算やシミュレーションに頼ることなく設計されていてかなりアナログ的でローテクなデザインという点で、ハイテク派とは対の方向を走ってる感があった。加えて、住まい手自らが積極的に中間領域を操作することが前提とされている点でもアナログ的であるし、機械設備を使っていないという点ではローテクな方法で環境制御がなされている。
アナログ・ローテクで機械に頼らないのは究極のエコであるけれども、ARIは工事業者、竹林の住処は建築家自身が住まい手という特殊な条件だから成り立つ部分もきっとあるのかなと思われる部分もあり、一般的なエンドユーザー向けの住宅に同様の住まい方をどこまで適用できるか、可能性が追求されたい分野だと思った。
外側を取り込む派
これは上記の竹林の住処が当てはまるカテゴリーで、建築の外側を中間領域として扱ってしまうタイプ。敷地内にある竹林が夏の日射を遮断する中間領域として扱われている。同じようにハマグリさん家では庭や既存の母家が中間領域として読み取られている。庭と住居を一体で考えることは都心ではなかなか実現し辛いかも。
リノベ派
ある意味ぼくとしては一番気になる分野で(笑)、佐世保のリノベーションは既存住宅を3つに分解して「端|中央|端」の空間が短冊状に並ぶ構成に整理されている。中央をフルリノベーション、一方の端を断熱改修、他方の端は手を付けず(もしくは簡易リフォーム?)した作品で、中央のフルリノベーションした部分に対して両端の部分が中間領域と読めるように思われた。というのも、この作品が持つ「端|中央|端」という構成が機能的・環境的には「属|主|属」とも読めるからである。「端」空間はあまり使われないけど「中央」空間の断熱性能UPに一役買っているよね、という理解。*2
もう1つの代沢の住宅も共通するけれど、もうちょいリノベーションならではの空間が提示され得る気がした。ぼくもつくりたい。
番外編
環境共生住宅とは関係ないけれど、 石垣島の躯体はコンテクストを未来に伝える媒体として建築を定義した作品で、これはこれでめっちゃ大事な視点だなーと思った。戦後の焼け野原や高度成長期の新興住宅地ならともかく、現代で建物をつくる際は敷地周辺には建物が建っているし既存の建物を解体することが多い。それら既存建物がきちんとしたものであれば、それらの建物を観察することは敷地のコンテクストを読み解くことに繋がるよね、という視点だ。
________________________
ということで、
- 環境共生住宅をつくるには中間領域の創造が有効そう
- 中間領域をどうやってつくるか?
- 中間領域でなにを遮蔽して何を透過させるか?
という点で今月の住宅特集を読んでみました。
番外編2
あと、同時に買ったもう1冊の本
読むなう pic.twitter.com/GCZuNDZhB5
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2018年3月24日
今月号の巻頭の特別記事地球に暮らすリアリティとほとんど同じような問題意識が語られていて、こちらも面白いです。
どちらも「身の回りの生活と惑星規模のスケールのギャップ」という同じ問題がテーマになっていることに興味深いと思うなどなど#新建築 #住宅特集 #環境住宅 #1/1000000000
— 渡邉明弘 aki-watanabe (@Akkun_Nabechan) 2018年3月24日
せっかくなら環境共生住宅の中間領域も、身のまわりの生活と地球規模のスケールをつなぐようなものであると、素敵ですね。
↓↓↓あわせてポチッとどうぞ。
中山英之|1/1000000000 (現代建築家コンセプト・シリーズ25)
- 作者: 中山英之
- 出版社/メーカー: LIXIL出版
- 発売日: 2018/03/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る
では、また。
はじめましての方へ
自己紹介です
ブログスタートのきっかけ