再生建築の全てを解説するブログ

 既存を活かすからこその価値を😃

検査済証なしで事務所から共同住宅に用途変更した事例

こんにちは。再生建築やってます渡邉です。

 

今回は

検査済証なしの建物を、弊社で事務所から共同住宅に用途変更した事例

をご紹介します。

 

目次

 

1.検査済証がない建物は、どのようにして用途変更できるのか?

既存建物は、千葉県松戸市にある築40年ほどの鉄筋コンクリート造の複合ビルです。

クライアントはこの建物の一部を事務所から共同住宅に用途変更したいと望んでいました。

ただ、検査済証がないためなかなか事業に着手できずにいました。

 

建て替えも検討したのですが、

高さ規定について既存不適格であったことから建て替えると建物が小さくなってしまうことが分かったため、用途変更した方が良いと判断しました。

加えてこの建物がクライアントにとって両親が残した形見であることも、上記の判断を後押ししました。

 

建物概要

 所在地:千葉県松戸市 

構造:鉄筋コンクリート造 

規模:地上4階 

敷地面積:約200m2

建築面積:約150m2

延床面積:約500m2

既存用途:店舗、事務所、共同住宅

確認済証:取得済

検査済証:未取得

目的 :事務所部分を共同住宅に用途変更

 

2.まずは建て替えと比較して企画・調査から

上述したとおり最初は建て替えも視野に入れて検討しました。

この敷地は日影規制が適用される場所なのですが、既存の建物はこの規定に合っていない状態でした。つまり現行の日影規制に合わせて建て替えると建物が小さくなってしまうのです。

建物が小さくなることは賃貸できる面積が減ることになるので、収益性の悪化につながります。このことから、より収益性の高い用途変更を目指すことになりました。

ちなみに既存建物が現行の日影規制にあっていない理由は、この建物が新築された後に日影規制が変わったからだということも突き止めています。

https://www.instagram.com/p/BpOGGyeDeAM/ 

 

3.用途変更の第一歩は、過去に検査済証が発行されたかどうかを確認することから

用途変更を目指すことになったことで、事前調査に着手しました。

主な作業は、オーナーから土地・建物に関する全ての書類や設計図書をお預かりし、過去にどのような工事や手続きがなされているかをチェックするというものです。

最初に行政で台帳記載も閲覧したところ、検査済証が発行されていないことが確認できました。その他の図面(建築、構造、設備)は全て揃っていたので、これらの資料をもとに調査を進めることにしました。

次の作業は目視調査です。残っている図面と現地の整合性を隠蔽部分*1を除いて確認したところ、ほぼ図面のとおりになっていることが分かりました。一部で違反になっていそうな箇所が見つかりましたが、ごく軽微な内容であるため今回の工事で是正できると判断しました。

事前調査をすることにより、違反部分を事前に把握することができるので、用途変更に伴いどのような是正工事が必要なのかを予め計画することができます。いざ工事を始める段階になって違反が出てきた!なんてことはなるべく避けたいですよね。

 

4.検査済証がない建物を活用するためのガイドラインを用いて既存不適格建築物であることを証明しよう

4ー1.用途変更するために、まずは用途地域を確認しよう

意外な落とし穴ですが、それぞれの土地に建てられる用途には制限が設けられています。

それが用途地域というもので、各土地に割り当てられている用途地域の種類ごとに、どのような用途なら建てて良いかが予め決められています。

そこで、今回の計画でも当該敷地の用途地域を確認しています。今回は共同住宅への用途変更を目指していたので、共同住宅が建てられるエリアなのかどうかをチェックしました。

飲食店、ホテル、福祉施設など用途によって建てられるエリアが決められているのでよく確認しましょう。

 

4ー2.用途変更する際にチェックすべきその他の敷地条件

用途地域の他にも敷地条件によっては接道する道路の幅員の規定があったり、高度地区や日影規制などに該当する場合があります。用途地域、防火地域などは役所のウェブサイトで確認できます。(一部地域では確認できないので窓口で確認します。)

築数十年のプロジェクトでは、新築時と用途地域容積率、建ぺい率、高さ制限などが変わっている場合もあるのでご注意を。

https://www.instagram.com/p/BG7PzyMBPJH/

 

4ー3.大まかなプランを検討しよう

目視で分かった違反の是正を念頭に置きながら、どのようなプランが成り立つかをざっくり検討します。新築とは全く異なる知識やテクニックが求められるところです。

共同住宅から共同住宅に用途変更する場合、採光の窓が必要になります。(建築基準法では事務所は採光が不要です。)窓は何でも良い訳ではなく建築基準法で定められた採光計算をクリアする必要があります。

今回のプロジェクトではもともと付いていた窓が採光上有効でなかったため、新たに窓を設ける必要がありました。ところがこの建物は鉄筋コンクリート造です。採光に必要だからと言って外壁を解体すると、耐震性が損なわれてしまう恐れがあります。

今回は構造図が残っていたため、鉄筋コンクリートの外壁であっても耐力上不要な部分を確認して解体する範囲を決定しました。

その他、避難導線や排煙といった法的な部分はもちろん、機能性や使い勝手、デザインなどあらゆる面からベストなプランを検討します。

ちなみに既存建物は新築では作れない建築物であることも多く、どんなにお金をつぎ込んでも決して得られることのない建物を作ることができるというメリットがあります。私たちは、既存のポテンシャルを最大化することで、新築では得られない建築を作りたいと思っていたりします。

 

5.検査済証がない建物をガイドラインを用いて既存不適格建築物であることを証明する際に求められた調査内容

検査済証がない既存建物を活用する為のガイドラインを用いて既存不適格建築物の証明をする前に、指定確認検査機関が求める調査を実施しました。

具体的に求められた調査は以下のとおりです。結構ありますね。

  • 現況の図面を揃えること
  • 図面が新築時の基準を満たしていること
  • 構造躯体の強度に問題ないこと

 

6.検査済証がない建物の現況調査

6ー1.実測調査

実測を行いながら違反箇所を細かく確認します。違反箇所としてよくあるのが、違法増築、建物が防火地域・準防火地域に該当しているのに耐火・防火要件を満たしていない、避難経路が確保されていないなどがあります。また、新築時は適法だった部分を後から改修・リフォームすることで違法になっている事例も少なくありません。

https://www.instagram.com/p/BrG_Ho7jLeN/

 

6ー2.図面の復元、机上調査

今回の建物は設計図書が残っていたので、それをもとに法チェックを行います。図面が残っていなかったり、後に改修工事がされている場合などは実測調査の結果をもとに図面を復元します。

特に注意すべきことは確認申請時から面積が増えていないか、建物の高さは守られているかなどの集団規定です。違反があった場合は建物の一部解体などの工事を伴う場合もありますので、注意が必要です。

 

 

6ー3.構造調査

建物の構造に問題がないかを確認します。鉄筋コンクリート造の場合、重要な調査項目はコンクリート強度、コンクリートの中性化深さ、鉄筋の状況の3つです。

 

鉄筋コンクリート造の構造調査の例

コア抜き:外壁などからコンクリートのコアを抜き取る

  • 圧縮強度試験:コアを圧縮破壊して、コンクリートの強度を確認する
  • 中性化試験:コアを抜いた部分にフェノールフタレイン液を塗布して、中性化がどこまで進んでいるかを確認する

はつり調査:局所的に外壁などをはつって鉄筋を確認する

  • 目視・実測:経、種別、端部の状況、錆の有無などを確認する

レーダー探査:探査機器を使って、外壁を破壊せず広範囲の鉄筋分布を確認する

 

構造図がない場合はこれらの調査をもとに復元することになるケースもあります。その場合は調査箇所が増えて費用も高額になることもあるので事前によく確認を。

また、旧耐震の建物では用途変更と合わせて耐震診断をすることもあるのですが、この調査は耐震診断でも使えるので一石二鳥です。

 

7.ガイドラインを利用して検査済証のない建物の法適合状況調査報告書を取得する

ここまでの調査結果を指定確認検査機関に提示して、法適合状況調査を依頼します。検査機関の検査員が現場検査を行い、第三者として違反事項や既存不適格を証明してくれます。完了検査をもう一度受けるイメージだと思えば分かりやすいでしょうか。

今回のプロジェクトでは違反部分や不適合部分がありましたが、事前調査で想定していたとおりだったため、計画通りのプランで用途変更を進めることになりました。

 

8.検査済証がない建物の現況調査が完了すれば、用途変更に向けて計画を進めていくことが可能に

このようにして、このプロジェクトでは法適合調査を経て無事用途変更の確認申請に進むことができました。

検査済証がない建物の用途変更は非常に多くのご相談をいただいています。検査済証がなくて用途変更ができないと諦めていた方は、ぜひ一度ご相談していただければと思います。

検査済証がない建物を再生するのは、新築の設計以上に手間と時間のかかる作業で、新築とは異なる独特の知識やスキルが求められます。それでも必要なステップを踏めば用途変更や増改築が可能になります。また、新たに確認済証を取得することにもつながり、物件の評価やコンプライアンスの観点において大きな価値を持ちます。
検査済証がない建物の用途変更や増改築などをご希望の方はぜひ渡邉までご依頼ください。

 

では、また!

 

▼このプロジェクトの詳細はコチラ

www.aki-watanabe.com

  

▼具体的なご依頼・ご相談はこちらからお願い致します

www.aki-watanabe.com

 

▼自己紹介です

d.hatena.ne.jp

 

▼ブログスタートのきっかけ

saiseikenchiku.hatenablog.com

*1:仕上げで隠れているなどの理由で目視により調査できないところ