【用途変更】2017年は既存ビルに保育所・幼稚園を作ろう!シリーズです。
過去の連載はこちら。
【用途変更】2017年は既存ビルに保育所・幼稚園を作ろう!ー世田谷区ー
【減税|用途変更】2017年は既存ビルに保育所・幼稚園を作ろう!その2
【用途変更|バリアフリー|法改正】2017年は既存ビルに保育所・幼稚園を作ろう!
【用途変更|検査済証なし】代替手法で用途変更が可能に【保育園】
世田谷区では条件つきで検査済証なしのビルでも保育所を開設することができるようになりましたが、前回の続きでその背景・経緯をご紹介。
結論から言えば、これまで区の現場で1枚の「検査済証」がないばかりに断念してきた既存建物を、保育園として整備することができる方策を示してきたもので、空回りすることが多かった議論がようやく一歩進んだことになります。
12月5日に世田谷区にも届いた東京都福祉保健局の「通知」の内容を見てみましょう。検査済証がない既存建物を活用して保育所等を設置する際の提出書類として、1.2.3.のいずれかを列挙しています。
東京都からの「通知」の全文は、文末に「資料」として掲載しておきますが、噛み砕いて言えば、次のような書類となります。
1.の建築主事とは建築確認の申請内容が法令に適合していることを確認する職務を担う者を言います。また、特定行政庁とは、建築主事を置く区市町村の長を言い世田谷区の場合は世田谷区長になります。つまり1.はこれらの権限を持った者が検査済証のない建物について「仮に建物の完成時点で検査を受けていれば検査済証を取得できた建物である」との証明書を出すことで検査済証の代わりにしようというものです。このケースは行政自ら証明を行うので公共施設を対象にしているものと考えられます。
2.は建築基準法に特定行政庁等が「建築物の状況に関する報告を求めることができる」とあり、この規定を活用して建物の構造上の安全性など建築基準法に合った建物であることの現状報告を受け確認することで検査済証のかわりにしようというものです。
3.は平成26年7月に国土交通省が示した既存建築ストックの有効活用を円滑化するために建築基準法に適合している状況を調査する方法を示したガイドラインに基づき調査した報告書のことです。このガイドラインはこれまであまり利用されておらず、特に保育園に関しての事例は聞いたことがないものなのですが、今後はこれを活用して報告を受け検査済証の代わりにしようとするものです。このガイドラインに基づく報告は2.の報告の際にも活用できます。3.のこのケースは建築主事が存しない市区町村で特定行政庁も存しない場合で区市町村長が確認できるようにしたものと考えられます
一方で、小規模保育事業は区の権限で判断することになっています。今回、小規模保育向けの既存建物が、「検査済証」がないことで整備が進まなかったことから、世田谷区独自に検討して、「耐震強度」が確保されているかどうかを基本にして、次のように整理しました。
次のすべての条件を満たす建築物については、検査済証の交付を受けていない場合であっても、保育事業者が区長に関係書類を提出することにより、小規模保育事業を実施する場所として認めることとする。
なお、建築物の構造耐力や耐震性能の判断にあたっては、必要に応じて建築関係所管に技術的助言を求めることとする。子どもの安全を確保するために、一定の条件を付して保育園として利用できる物件をセレクトして認めていこうという考え方で、これまで準備を重ねて12月から実施ます。今回は、東京都が認可保育・認証保育所で「通知」を出したことから、小規模保育事業同様の考え方で取扱いを始めようと考えています。
読者の中には、「待機児童対策」というリアルな課題に対して、事務的で細かな手続きについて言及していることに違和感を覚える方がいるかもしれません。しかし、「このビルの1階を保育園にしたい」と強く願っても、事務手続き上、「検査済証」がない物件は当初から除外するルールになっていれば、保育園として整備されることはありません。東京都は、「これまでも認めてきた」という立場ですがあくまでも「例外的」な取扱いで、今回の「通知」によって保育園整備の「既存建物」の活用の幅が大きく広がります。
「現場の声を聞くこと」で、「壁」をひとつ取り払いました。さっそく、世田谷区でも小規模保育事業、そして認証保育所を中心に、低年齢児の保育園として整備できる「既存建物」の活用に力を入れていきたいと思います。
参考:保育園に「既存建物を活用できない壁」に穴は開けられるか | 保坂展人
参考:保育園整備の前に立ちはだかる「壁」に開いた風穴 | 保坂展人
※太字はぼくによるものです
※数字の形式を一部変更しています
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